大判例

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大阪地方裁判所 昭和45年(わ)4023号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕本件公訴事実の要旨は被告人が「昭和クラブ」と云う名称でマッサージ業を経営中昭和四四年五月九日安田幸子と、同年六月中旬原尾弘子と、同年六月末西元あさ子と(以上の契約場所は大阪市天王寺区細工谷町九一清風荘内昭和クラブ)、同年八月三一日門脇輝子と、同年九月二五日李鈴子と、同日金京喜と(以上の契約場所は大阪市南区高津町六番丁三昭和クラブ)それぞれ不特定の遊客を相手に売春をさせてその対償を分配取得することを約し、もつて人に売春をさせることを内容とする契約をしたと云うのである。

<証拠>を綜合検討すれば左記のとおりの事実を認めることができる。

すなわち被告人は昭和四四年五月一〇日ごろ大阪市天王寺区細工谷町所在清風荘内で「昭和クラブ」との名称でマッサージ業を開業し(その後前記南区高津町に移転)、いわゆる「ホテル」と称される旅館からの電話申込みにより投宿中または休憩中の客のためにマッサージ師を派遣すると云う形態を主とするおおむね正常、適法な営業をすることとして女子マッサージ師三、四名(前記安田幸子を除きいずれも正規のマッサージ師の有資格者で年齢は三〇歳以上四四、五歳の高年令者)を雇入れその経営をはじめたが、日ならずして派遣先「ホテル」から「こんな女ではだめだ、もつときれいな若いのをよこせ」との苦情が出てこれを知つた有資格のマッサージ師が退職すると云う事態も生ずるに至つたので、このままではマッサージ業の経営の継続は不可能になると考え、これら派遣先の客の要求を満たすため若手の女子を雇入れることとしたが、若年女子中には正規の資格を有するマッサージ師は少ないためいずれもマッサージ師見習との名義で「ホテル」からの電話依頼によりこれを旅館に派遣することとした。前記六名の女子は開業当初雇傭された安田幸子を除きいずれも右の経緯で雇傭されたものである。

マッサージ料は一回(五〇分ぐらい)八〇〇円で他業者の正常のマッサージ料金とだいたい均衡しているが、派遣するのは前記のとおりの無資格者であつてマッサージ、あんまの技術は拙劣でこれら女子は客に対し若干のマッサージサービスをするほかスペシャルと称し性器を摩擦することにより性的満足を与える行為におよび、またときどきは対償を得て客と性交を行なつており(売春の頻度は人により異ると考えられるが前記李鈴子の場合は四〇日間に四人程度の客と売春をし、その他はスペシャルにとどめたことが認められる。また他の者もスペシャルにとどめる場合も多く、客の要求があればほとんど必らずこれに応じて売春をしたものとも認められない。)、被告人としてもいわゆる「ホテル」に投宿中または休憩中のマッサージ客に前示のような技術拙劣な若年の女子を派遣すれば通常のマッサージサービスの要求は措いて、またはマッサージとならんで性的要求をする者が多いであろうこと、また派遣された女子もこれに応ずる場合が多いであろうことは勿論認識していた。

なおマッサージ料金一回八〇〇円のうち(時期によつて多少差異があるが)被告人が二五〇円ぐらいを取得し、「ホテル」に一〇〇円ぐらいを謝礼として提供しその他に車代、電話代等を控除されるので女子の取得する金額は四〇〇円足らずとなりまた客からマッサージ時間の延長要求があるときは二回目四〇分、三回目以上三〇分ずつとし、各回の料金およびそれからの控除は第一回目の場合とはほぼ同様である。

以上の事実によれば被告人は安田幸子ら六名の女子を雇入れるに際し、これら女子が少なくも一部客に対しては売春を行なうことを当然の前提とし、また雇傭された女子も被告人の意を受けて暗黙に「ホテル」で売春することを了解したもので、ここに黙示的に売春契約が締結されたのではないかとの疑が多分に存する。

しかしながら他方前掲各証拠によれば被告人は前記女子の雇入に際し「うちはあんま屋だからホテルで客から注文があつてもへんなことはしないように」と一応の注意を与えたり(前記門脇輝子の場合、被告人の昭和四四年一二月一〇日付司法警察員に対する供述調書)、雇入れた女子が出向先のホテルで売春した旨を「昭和クラブ」内で話すのでもなくこれを解雇したり(西元あさ子の場合、被告人の昭和四四年一二月九日付司法警察員に対する供述調書)、金京喜がときに夜間客とホテルに宿泊する趣旨の電話連絡を被告人にすることがあるので、そのことを嫌らしいことで困つたものであると内縁の夫杉山鶴松と話したり(被告人の前同供述調書)、また雇入れた女子が客の売春要求を拒否して昭和クラブに逃げ帰つたことにつき当該女子を叱責したりしたことはなく(原尾弘子の供述)、スぺシャルをしたり、ときに売春をしたりした場合にその対償を分配取得したり、分配要求をしたりしたことのないのは勿論(これら対償の額は一定しないがスペシャル三、〇〇〇円ぐらい、ダブルスペシャルと云われる行為五、〇〇〇円ぐらい、売春七、〇〇〇円から一万円ぐらい。)、これら行為の対償額がどの程度かについての認識すら余りなく(被告人の一二月九日付司法警察員に対する供述調書)、これら女子が「昭和クラブ」内で客がしつこいと話をする機会などに客がしつこいときはスペシャル程度のことをしてその要求を一部満たし適当にあしらつて帰るようとの趣旨の指示、助言を与えていた(安田幸子の供述、被告人の供述)事実も認められる。

もつとも被告人の司法警察員に対する昭和四四年一二月一〇日付供述調書中には安田幸子の雇入れに際し「客は女の体が目的で来るのがほとんどだからおこらさんようあんばいやつて」と述べて暗に売春契約をした旨の記載があり、安田幸子の検察官に対する供述調書中にも右と同趣旨の売春をすることを合意して雇傭されたとの趣旨の記載があり、同女との間の売春契約については疑が特に顕著であるが、これとて前認定の事実および被告人の当公判廷における供述および安田幸子の当公判廷における供述に徴すると売春をさせる合意をしたものではなくて客からの性交要求がある等したときはスペシャルを行なつて客の要求を一部満足させ、無下に拒否してこれを刺激しないようにせよとの趣旨に解する余地がないわけではなく、雇入れた女子に対しては不十分ながら技術の講習をもしていてこれらの者は拙劣ではあるがまがりなりにマッサージサービスの提供もできるので、全く無芸のいわゆる「芸者」とか、観光知識のほとんどない者を使用しての「ガイドクラブ」など性交以外の目的が考えられない形態の営業とは趣を異にする面があるものと云わねばならない。

また前掲安田幸子、西元あさ子、門脇輝子、李鈴子、原尾弘子、金京喜および被告人の各供述調書には被告人が前記の者と売春契約を結んだ事実を認める趣旨の供述記載部分があるが、これらはいずれも抽象的であつて具体性に乏しく、これから直ちに本件公訴事実の存在を認めることはできない。

以上の事実を綜合すれば被告人と前記六名の女子との間に客に対しその要求によりスペシャルを行なうべきことの合意が存在していたことは明らかであるけれどもそれより進んで売春する旨の合意があつたとの点についてはなお合理的疑を容れる余地があり、雇傭された女子の前示売春行為は被告人との契約に基づくものではなく、独自の行動としてなされたものと考えられなくもないので結局前摘示の売春防止法違反の公訴事実については証明がないことに帰する。(石川哲男)

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